The National Art Center Tokyo (Wikipedia)
The National Art Center Tokyo (Wikipedia)

     6時ごろ目が覚めた。地図や図面を見るのが好きだと言っていたのを思い出した。朝食まで、時間があるので、手元にあったA3のコピー用紙を取り出して、2つに折って、上が北になるように東京駅を中心にして、東海道線、山手線、横須賀線、成田線をボールペンで描いた。この線上に、直径5ミリほどの円を書く。成田空港、品川、原宿、川崎、横浜を書き込む。多摩川を青の色鉛筆で描いてから、南武線と東横線、小田急線を書き込んだ。あとは、日にちごとに色を変えて、この地図をたどればよい。4日分の色が交わることはあっても、なるべく重ならないように平行線を辿るように描いた。ゲストハウスから駅までは、往復する回数が多いので、線が並び過ぎて太くなった。小田急線が途中で途切れていたので、原宿まで伸ばして千代田線に仕立てた。相互乗り入れ路線になった。新国立美術館の位置が決まった。

Power Source lasts a day / total.nifty.com
Power Source lasts a day / total.nifty.com

     8時に朝食。昨日と同じカリカリに焼いたベーコンとスクランブルエッグを持ち込んだ。ゲストのリクエストに応えた朝食のメニューだ。私は、プレゼントの1つだと、4つに折った手書きの地図を手渡した。14日に成田に到着したところから、まだ、17日分は、きょうこれからだけれど、コースの予想はついている。成田出発まで、出来上がっている。岡本太郎美術館の前で吠えられた犬や、今回は行かなかったが、話の中に出てきた築地魚市場や新宿の野菜売り場も記入しておいた。野菜売り場はどうやら、新宿にある「Iデパート」の地下の売り場らしい。昨夜、コアラのステッカーが見つからず、子供たちのお土産を何にするか悩んでいたので、代用品として使えるかわからないが、自宅にあったプラスティック製のカードを数枚もってきた。絵柄を説明しながら手渡した。

Flags of All Nations / tospa.shop-pro.jp
Flags of All Nations / tospa.shop-pro.jp

          30分後に、ゲストルームに持ち込んでいた私物を持ち帰る準備にかかった。ゲストは今すぐにも出かけられる格好をしていた。妻は洗面所にあったシャンプーや洗剤を紙袋に入れ、寝具はすべて一か所にまとめた。私は、押し入れにしまい込んであった芳香剤を全部取り出して、もとあった所に戻しておいた。この芳香剤の臭いを消すための消臭剤が必要なくらい、臭いが強かった。1日目にゲストが来る前に、掃除をしにきたとき、どの部屋にも、置いてあって、ゲストルーム全体がこの臭いで統一されていた。玄関にあった、コサージュを取り去った。そこには、座りが悪そうで、倒れて割れるのを待っている陶器製の置物があった。用心のため、伏せておいたのだが、もとのように立て直した。台所の隅に3つに分けたごみ入れ用の袋を別の大きな袋に入れて1つにまとめてから、日本間に戻り、芳香剤の隣にあった掃除機を押し入れから取り出し、プラグをもってコンセントを探した。「何かすることは」と尋ねるゲストには、「ゲストはホストのいうことをきいて、ソファーに座っているように。掃除機が通るときは、両足を上げて。」と伝えた。コンセントとプラグのサイズが微妙にちがっていて、プラグの抜き差しが不便な「ティ〇〇」の湯沸かし器と、スムーズに抜き差しできる日本製のコーヒーメーカーはゲストに持ってもらった。

Kutani Porcelain "Shishi Lion on a Ball"      (玉のり獅子)
Kutani Porcelain "Shishi Lion on a Ball"     (玉のり獅子)

     私は、枕と敷布団を広げたシーツの中に入れて持ち帰った。万国旗が一面にプリントされた袋を担いだ季節外れのサンタのように。ゲストハウスで行儀のよかったゲストにご褒美として、わが家から見える外の景色をプレゼントすることになった。けさ機嫌のよかった妻のひと言で、急に決まった。これは、お行儀のことはさておき、臨海工業地域を海側から見学するクルーズがあることをゲストが知っていて、時間があれば参加したがっていた。ところが、昨夜、調べたら、この時期には実施される回数が少なかった。桜木町からランドマーク・タワーにのぼっていなかったら、横浜港から出発する船に乗れなこともなかったが。料金が同じなら私は、クルーズよりお寿司のほうがいい。予定表を立てて日程をこなす妻に対して、私とゲストは「ヤジさんキタさん」の珍道中のように行き当たりばったり派である。工場見学クルージングの代案として、工場が立ち並ぶ地域を通る路線バスに乗るというのも考えたが、所要時間が分からないのと、行ったことがないので中止にした。駅から東京湾アクアラインに向かうバスなら、神奈川臨海鉄道に沿って立ち並ぶ工場群が見られることを知ったのは、かなり後になってからのことだ。

     ブーツを玄関で脱いでもらって、廊下を進む。畳に散らかった私の所有物が目に入らないように、襖は締め切ってあった。居間に案内する。ゲストはテレビの横にあるリビングボードに近寄って、九谷焼の獅子の置物や妻の買い求めたお宝の品々を覗き込んでいる。右側の棚にゲストからお土産にもらったロバート・マクリントック(Robert McClintock)の油絵とそれに付いていた絵葉書がガラス越しに見えた。昨夜までは玄関に置いてあった。あのときは、額に入れるつもりだったが、半年以上たった今も、戴いた当時のまま、飾ってある。

Bay Bridge seen from Harborside Park
Bay Bridge seen from Harborside Park

     私は自分のサンダルを履いてベランダに出た。もうひと組のサンダルが間に合わない。ゲストは厚手の靴下のまま、外に出てしまったが、あとから妻が持ってきた小さめのサンダルから足をはみだしたまま、写真を撮り始めた。遠くの方に見える高速道路沿いに「オリ〇」と書いたアルファベットを見て、「あの建物は工場か」と聞く。「多分、あれは倉庫だ」と答えた。以前は、ここから、ベイブリッジやつばさ橋が見えていたのが懐かしい。近くに目を移して、「ずいぶんコンドミニアム(condominiums)がたくさん建っている所だ」と言っていた。「これらの高層住宅が建つ前は、このあたりは工場だった」と説明した。400年前は湿田で、100年前に浅野総一郎が埋め立てるところから、簡潔に話せるほど時間がない。ゲストはデジカメをビデオに切り替えて、南側の景色の撮影を終えた。玄関に戻り、扉の閉まっていた私の部屋の中を妻が見せるように言った。妻にとっては、「わが家の恥」、私には「くつろげるアトリエ」である。別に隠すことはないので言う通りにして、扉を開けて、私には「すぐに何があるかわかりやすいレイアウトの」、ほかの人には多分、「いま部屋を片づけている最中でしょう」と思われるオブジェをお見せした。ゲストの感嘆の声を聞く前に、「こんな状態であるのでここには、泊めてあげるわけにはいかなかった」と伝えた。

Skytree Tower seen from South Kawasaki
Skytree Tower seen from South Kawasaki

     北側の景色を見に行く。晴れ渡った冬空に浮かぶはるか遠方のスカイツリーをデジカメに収めている。ゲストの撮影する姿を私が撮った。富士山の方向を示しながら、ここからは残念ながら見ることができないと伝えた。昨日は、午前中に駅のホームから、夕方にはランドマーク・タワーから富士山が見えた。このあともう一度、ゲストは富士山を見る。私はこの後、もう2回見るチャンスが巡ってきます。ご期待ください。愛猫をしっかりと抱えた妻をあとにして、もう一度、戸締りを再確認するために、ゲストルームに戻った。「Strange!」と言いながら、ゲストは、3日前に戻った部屋の様子をデジカメに収めていた。私は台所のガス給湯器のボタンを確かめてから、ガラス戸や窓の鍵を見ながら、かかっていることがわかっているのに、もう一度、触って手ごたえを確かめた。

 

 

Red Buoyant II sees the Police Box
Red Buoyant II sees the Police Box

     15分後にゲストハウスの入り口で妻と落ち合うことにしていた。ゲストはポーチから、ゆっくりと歩きだした。アプローチの中ほどの所で、来たときと同じように、手荷物を載せたトロリーケースの横でスマホを見ていた。私はビデオカメラを構えて、ボルチモアの自宅に向けて出発するきょうの気持ちを語ってもらった。ランドマーク・タワーで、夜景を見たときとは違って、ちょっと笑顔が控えめだ。いろいろお世話になったことを語ってくれた。なかなか現れない妻を迎えに行った。途中で、ばったり出会った。ゲストと3人でバス停に向かう。知り合いのHさん夫妻もバス停にやってきた。私のデジカメで2枚撮ったら、Hさんは自分のデジカメを取り出して、「これで撮って欲しい」と言う。歩道を背景に1枚、空をバックにロー・アングルでもう2枚撮ってカメラを返した。バスを待っている列の最後尾付近にいたゲストに、ゆっくり近づいたHさんは、慣れた口調で「Where are you from?」と聞いた。「USA」とゲストが答える。「アメリカのどこ」「ボルチモア」。簡単な職務質問が終わって、「どなた?」とHさんのことをゲストが聞くので、「海外遠征が趣味で、花でも人間でも美しいものは見逃さない気さくな人だ。」と説明した。

Objet Poet Basho Matsuo
Objet Poet Basho Matsuo

     バスがやってくる方向を背景にゲストを撮っていると、タクシーが来た。こちらを見ていたHさんが「成田まで行くのか」と聞いたので、タクシーのトランクを開けながら、「その通り」と返事しておいた。手荷物と旅行鞄を入れてトランクを閉じた。妻は運転手の隣の席に、ゲストはいつものように右奥に乗り込む。運転手さんに少し急いでいると伝えた。八丁畷まではバス路線と同じ道順だったが、M病院の1階入り口にある「松尾芭蕉のオブジェ」を右に見たあたりで、左折した。京浜急行線の低めのガードをくぐった。思わず誰かが声をあげた。私ではない。右折すると市電通りが見えてきた。京浜急行の高架を左に見ながら、しばらく走ると駅のタクシー乗り場に着いた。料金メーターを見ると、その数字がいつもより2割も少ないので、降りる前にゲストに、運転席の後ろから見てもらった。「He’s the best driver today. Very kind.と言うゲストの言葉が、運転手さんもわかったのか、恐縮している様子で、トランクの荷物を下ろすのを手伝ってくれた。