La Citta Della, Kawasaki
La Citta Della, Kawasaki

         小雨になったり、本降りになったりした昨日違って、今朝は晴れ渡った青空だ。真冬の冷たい強風が吹き荒れている。この日から朝の挨拶は「お早う」「コーヒーはいかが」になった。「How are you?」「Fine, and you?」は英語の教科書と私たちの初日だけだった。8時に朝食を済ませ、ほのかにコーヒーの香りの残るゲストハウスに掃除機をかけることにした。土曜日はゴミを出す日だ。台所を入った左側に「紙類、プラスティック、その他」と書いた3つの袋を用意しておいた。袋をまとめていると、何か手伝うことはないかと聞く。私だけでできるから、居間に座って待っているように伝えた。「外で喫煙したいが、どこで吸うといいか。」と聞かれた。「道路を渡ったところがいい。」と居間から窓の外を指さしながら答えた。掃除が終わって、しばらくしてもなかなか戻ってこなかった。鍵を持って出て行ったので、戻るまで待った。寒風の中、敷地内をかなり散策して回ったらしい。後で一緒に出かけようとしていたのに、芝生の広場の方まで行って、写真撮影は終わっていると告げられた。メールでこちらに滞在中の気温は、38℉(3.3℃)から50℉F(10℃)ぐらいだと伝えておいたのが、衣服を荷物に詰め込むときに役立ったと言っていた。摂氏()と華氏()の換算表がネットですぐ見つかった。細長いガラス棒の両側に摂氏と華氏の両方の目盛りのついた温度計はいつのまにか、見かけなくなってしまった。窓を閉めて、テーブルの上を見たら、『キュレーターの在り方』と題した、厚さが6センチはあるハードカバーの本が置いてあった。何箱吸ってきたのか、やっと戻ってきたゲストに「私は、掃除機の係りで、ルームサービスの係りではないので、ベッドルームのベッドの上に広げてあったものは一切、触らずに床を簡単に掃除機で吸い取っただけだ」と伝えた。

Cine Citta, Kawasaki
Cine Citta, Kawasaki

            9時半ごろのバスで川崎駅に向かう。妻に言われたとおり、入り口に置いてあった、ゲストの来日記念のコサージュに水をやる。台所から玄関までもっていくときに、しずくが垂れるといけない。台所のシンクの中に置いたまま出かけた。バス停で並んでいる人の最後尾についた。念のため「スイカを持ってきたか」とゲストに聞くと、忘れていた。持たないまま出かけるか少しとまどっていたが、「持ち歩いていないと不便だ」と言ったら取りに戻る仕草をした。バスはやや込んでいた。奥の一段高くなった所まで進み、右側の窓の外を見ていると、手摺りのボタンに触れながら、ボルチモアのバスのボタンは、テープ状になっているので見つけにくい場合もあると言っていた。何十年も前の話だが、アメリカ留学中に、週末に日本人同士で、バスに乗って街に繰り出した。降りる人がバスの窓の上に渡したカーテンの紐のようなものを引く。チャイムが鳴り、バスが止まっていたことをふと思い出したので、話してみた。線路沿いにあるバス停で、1人がけの席が空いたのでゲストに座るように勧めた。しばらくするとバスの運転席の向こうに交差点が見える。ビルの周りを囲った工事用の白い囲いを見つけて、あれは何かと聞かれた。工事をするときにはあのような囲いをすることを説明した。昨日の帰りのバスの中で伝えておいた通り、終点の1つ手前で途中下車。出かけるときに吹いていた風は収まっていた。バス通り側に面している入り口のゲートをくぐる。色調や街並みが違うのでやや興奮気味の様子だ。デジカメを取り出しながら、この風景を撮ると言った。正面に運搬車が止まっていたので、その先に行ってから撮ることにした。

Bocca della Verità
Bocca della Verità

     ゲストがチケット売り場の横に映画「ローマの休日」(Roman Holiday)に出てくる「真実の口(Bocca della Verità)」を見つけた。少し奥まっていて、普段ここを通るときには気づかなかった。占いの販売機になっていた。海神トリトーネの浮き彫りがライオンの顔のように施されている。古代ローマでは下水道のマンホールの蓋として使用されていたのだそうだ。ゲストが口の部分に手を入れようとしたたので、それをカメラに収めた。「ローマの休日」の原題を私が間違えて「Holidays in Rome」と言ったら、上映される国によって題名が異なることもあると言っていた。らせん状の坂を上って橋を渡ったところに入口が見えた。中に入るとサウナがあった。右横の別のドアから出ようとしたが11時開業のため、鍵がかかっていた。階段を下りて地上に戻った。

Stained Glass above Entrance Gate
Stained Glass above Entrance Gate

     入り口にあるゲートまで戻ると、通りの向こうに見えるアーケードのステンドグラスを撮影していた。「Sデパート」のコーヒー店の前にある階段から地下街に降りる。野菜を売るマーケット広場を通り、Red Buoyant IIの真下にあたる通路を左に曲がって、「Yカメラ」の地下1階売り場へ。滞在中に撮った映像を持ち帰ってもらうために、USBフラッシュメモリーを買いにきた。ここで待っていると言われたが、店員に売り場を尋ねたら、3階だった。一緒に上に向かう。私はゲストの方を向いて話しながら、2階へ行こうとした。昇れるものなら(If you insist.)という顔をされた。1階のエスカレーターの向きが逆になっているのを忘れていた。エスカレーターの逆昇りは子供のころにやったと聞いた。パートナーのPさんは緑色が好きだと言うので、「S社」製の緑色をした8.0GUSBメモリーを1本購入した。カウンターでカードも現金も使わずに買ったのを見ていて、どうなっているのか質問された。お財布携帯とポイントの説明をしながら、エスカレーターを降りて2階のバルコニーに出た。上から見たRed Buoyant IIを撮影する絶好のアングルを見つけた。「立ち入り禁止」の掲示のそばで真下に見えるモニュメントを撮影した。円形の台座に載った、斜め上からの貴重な1枚だ。Mary Annにその日の夜、ゲストの近況報告を書いたメールに添付した。

TOSHIBA and LAZONA, Kawasaki Station West Exit
TOSHIBA and LAZONA, Kawasaki Station West Exit

            JRの線路をまたぐ連絡橋を渡って駅の反対側に向かった。橋が終わりに近づくとすこし左に曲がっている。アクリル板の向こうに白と黒のモニュメントが見える。らせん状の黒いのが左に1体、そして右には昆虫を題材にした白い2体が床から伸びあがっているようだ。白い方に近づいていくと、解体した建物の外壁の一部をそのまま、斜めに傾けたようなレンガ造りのモニュメントがある。ここには、以前レンガ造りの変電所があった。西口の駅舎の前を南北に横切るペデストリアン・デッキを北に進む。真ん中を歩いていたゲストは、渡りきる手前で手摺りに近づき、ビルに挟まれた遠景を撮影し始めた。建設中の建物を見つめていたので、説明した。今年中に本社を東京からこちらに移転して、8000人近い人が働く所だと伝えた。このときはまだ、「TOSHIBA」という赤いロゴはまだついていなかった。西口前の一帯は、1908年に東京電気として、この場所で操業して、アメリカのGE社の発明した「タングステン電球」をはじめ、様々な家電を製造してきた工場の跡地である。デッキを渡り終えて、左に曲がる。まっすぐ進んで、眩しい白色のLAZONA」と表示したLEDライトを右手に見ながら、ショッピング・モールの広場に入った。開店前で広い空間にまだ人影はまばらだ。円形競技場のように周りが建物で囲まれていて、寒風は吹き込んでこない。暖かい太陽を背中に浴びながら、広場のほぼ真ん中に立って、大型のスクリーンの真上に左右に広がっている大屋根を見上げるだけにして駅に向かった。翌日、その大屋根の下で日光浴しながら、成田エクスプレスの時間調整をすることになるとは、予想できるはずがない。カーブした大屋根と、広場のデザインの話になり、たまたま知っていたのでスペイン、バルセロナのリカルド・ボフィールというデザイナーによるものだと教えた。