市立生田民家園(from Website)
市立生田民家園(from Website)

     小学生の兄弟が両親と一緒にプラネタリウムの北側にある噴水で遊んでいる。今日は学校へ行かないのかと聞くので、きょうは土曜日で、週に5(five-day week)しか行かない学校が多いと伝えた。やや右寄りに曲がっている坂道の弧を描いた崖の下に、水の枯れた湿地が見える。根もとで切った菖蒲の株が数多く残っている。坂道の左前方に日本民家園のゲストハウスと思われる日本風の建物があり、道端に入り口を示す矢印が出ていた。休憩所に見えたので、中に入ることにした。トイレに行こうとゲストの方が先に入っていく。自動ドアに向かう。「入口」や「順路」という掲示板と矢印が出ているだけだ。左に子供用の受付と思われるブースがある。少し低い位置に据え付けられていた。中に女性が2人いたので、左側の人に尋ねる。「おトイレはどちらですか。」 その間にゲストは、先に進んでいた。背も高いので、目の高さが違っていて受付を素通りしてしまったのだ。「左側の、さらに奥にあります」と案内されると同時に、「そっち」と私は行き先を示した。展示品の間を抜けて、トイレを示す案内板を頼りに左奥に進んだ。受付の女性は、両手を横に伸ばし、手のひらを上に向けて肩をすぼめるジェスチュアこそしてはいないが、顔にはそれに代わるような表情がでているように見受けられた。私は岡本太郎美術館を出る直前に、アントニ・ガウディの作品をまねたような曲線を使ったタイル張りのトイレを使ってきたので、トイレに通じる少し離れた廊下で待っていた。帰り際に受付の女性に2人で丁寧に御礼を言った。ここは日本民芸館の入場券の販売所だった。中に見える古民家を横目に、生田緑地の出入り口に向かった。垣根の外側を市営バスが走り去って行くのが見えた。

セブン・イレブンのひれかつサンド  Ⓒ kumanoribbon
セブン・イレブンのひれかつサンド  Ⓒ kumanoribbon

         「長距離のウォーキングを終えた後だから、タクシーにしよう」と言ったが、「街の景色を観察しながら歩きたい」と言う。狭い歩道を歩きだす。日ごろから私も歩くのは速い方だが、ゲストの方がもっと速かった。パートナーのPさんが、もっとゆっくり歩くように呼びとめるほど速いのだそうだ。この日の夜、きょう日で2万歩を超えている歩数計の数字を見せた。「あなたは脚が長いから、もう少し少ない。」と言ったら、笑っていた。ゲストに比べたら、私の脚は短い。市営バスの停留所を通り過ぎた。陽は出ているが、寒風が音を立てて吹きつける中を登戸駅に向かった。住宅街の街並みが物珍しいのだ。あちこち見まわしている。こっちを向いたとき、左側を歩くゲストに、ひと月に携帯電話料金をどのくらい使うのか尋ねたら、使い方によるが9000円ぐらいだと答えた。しばらくして、「あっ、スパゲティの専門店がある。そばやスパゲティよりうどんの方が好き」という言葉を左耳で聞きながら、右後ろを振り向いて、その店に目をやった。肉類も好きだが寿司も大好きだと言う。ただし、穴子とウナギは苦手だそうだ。今晩の食事は、3人でステーキにしようと、けさ妻と決めていた。これを聞いて急遽、予定を変更することにした。妻にあとからメールで知らせることにした。広い通りに着いた。府中街道だ。横断歩道の信号がなかなか変わらない。ときおり、吹き荒れる風の音。何度も2人の鼻水を引っ込める音がする。通りを渡った左側にセブン・イレブンがあった。ゲストは、ATMを使ってみると言った。レジの前を通って奥に進んでいった。ゲストのあとについていく。レジの前を通り過ぎたら、ゲストがもどってきた。ATMは入り口の近くにあった。ゲストがATMと格闘している間に、私は暖かいお茶とひれかつサンドを買って入り口に戻った。ここでも、ゲストの持っているカードは使えなかった。郵便局でしか使えないカードなのだ。道路の向かい側にあるM銀行へも出かけて、試したが、やはり手ごたえがない。かつサンドが食べたくなって、歩きながら食べる予告をしたら、「あちらでは当たり前なので気にしなくてもいい」と言う。携帯電話の販売店の前でオレンジ色のパッケージに入ったティッシュを配っている女性がいる。郵便局が近くにないかと聞いたが、その人は知らなかった。行きのタクシーの中から、帰りに寄ってみたいと言っていた雑貨屋が見えてきた。表にあった木箱の中のフィギュアを触っていたが、気に入ったものはなかった。2度ばかり、買い求めるような素ぶりをしていたのだが。店内を、覗き込むだけで、また、歩きだす。「先ほどから歩いている街並みが気に入った」と言う。私には、よく見かけるいつもの街の風景だと伝えた。小田急線沿いの登戸駅と向ヶ丘遊園駅の間にある通りだ。ひれかつサンドをたいらげ満腹になったころ、登戸駅に着いた。

www.kawasaki-museum.jp/guide/
www.kawasaki-museum.jp/guide/

                  階段をのぼり、改札口の上にある電車の発車時刻を見る。数分で川崎行きが来る。話をしながら待っていることが多いのか、電車もバスも、すぐにやってくる。武蔵溝ノ口に着く前に、やっと座ることができたゲストに、「明日、帰国間際になると、きっと言うのを忘れるだろうから、明日言うはずのセリフを今、言っておく」と前置きして、「私はMary Annに頼まれて泊まる所と案内役を引き受けただけなのに、何を言っているか分からない私の英語に、我慢強く付き合ってくれてありがとう。いつもの私の生活空間を、とつぜん、英語の世界に変えてくれたのは、A.モリースだ。」と、座って私を見上げているゲストに感謝の気持ちを伝えた。宿泊の提供のみならず、案内役を買って出た私と、陰で援助を惜しまない妻のことを恐縮している言葉が返ってきた。妻の名前のあとに「さん」をつけて。1日目に、妻の名前を聞かれたとき、面白そうだと思って、「さん」をつけた所までが、名前であるかのように教えた。人の名前に「さん」をつけると、丁寧な表現になることを、そのときはいっさい触れなかった。誤解されると困るので、いまはもう、詳しく説明してある。